電気自動車

イノベーションのジレンマ」を読み終わった。重要な主張は「イノベーションへの解」とほとんど同じ。イノベーションへの解の方が新しい本なのだが、イノベーションのジレンマの方が遥かに読みやすいので、こちらだけ読めば十分に思う。1990年代半ばに出版された本なのに、内容がちっとも色あせていないことに驚きを感じる。

本の最後に、「電気自動車」という破壊的イノベーションの事例研究が説明されている。電気自動車を世の中に出すとした場合に、どういう市場を考え、どのように開発チームを結成するか、ということが書かれている。本に書かれている重要なことがすべて込められ、さらに具体的な事例に基づいているのでわかりやすい。読んでいて色々考えさせられた。この章を読んでいたら、なんだか、「機能の足りない電気自動車」と「能力の足りない自分自身」がオーバーラップして見えてきた。

電気自動車は、現在の主流の技術であるガソリン車には、機能的に全然たちうちできない。メインストリームの顧客の要望(車の加速度や一回の充電あたりの走行距離など)を、技術的に満たすことはできない。またコスト的にも問題があって、ガソリン車として作った場合は200万円で販売できる車が、電気自動車として作ると1000万円の車になってしまうそうだ。これではいくら環境マニアの顧客でも買わない。

しかし、一般に、技術の進歩の方が、顧客の要求が増大する速度よりも早い。電気自動車技術も例外ではなく、2020年辺りには、電気自動車の性能がメインストリーム市場の要求レベルと交差するという予想がある。

本題に戻る。僕は、技術者として、できるだけ大きな市場に自分の能力を展開したいと願っている。自分の作ったもの・関与した製品が多くの人に使われることを実感できれば幸せだと思う。しかし、一方で、そのためには自分の能力が足りない、また、環境も整っていないということが明らかになってきている。現在の自分の持っている技術力(資産)と、ものを作り出す体制(プロセス)で、メインストリーム市場に展開できる製品を開発することはできるだろうか。大企業で最先端の研究開発でもしない限り、なかなかそのような機会は得られないような気がする。

そうであるとすると、どうすれば良いのか。ここで僕は、自分自身を破壊的技術、もっと具体的に、電気自動車だと考えてみる。電気自動車を、現在のガソリン自動車の市場に展開しようとしても、価格1000万円で機能が貧弱な車が出来上がるだけだ。これでは絶対に勝てないだろう。

有効な戦略としては二つ考えられる。

一つ目は、メインストリームに技術を展開できるようになるまで待つという戦略。具体的には、自分の能力を磨きながらチャンスを探す、もしくは周辺技術がコモディティ化されるのを待ち、その流れに乗っかって、世界と勝負できるものを開発するということになる。これは、電気自動車のバッテリー技術が強化されるのを待ち、その後で現在のメインストリーム市場に展開しようという試みに相当する。

これはリスクも少なくなかなか有効な戦略に思われる。しかし、この方法では、破壊的技術を世の中に展開する旨みを得られない可能性が高い。勉強勉強の繰り返しで、常に世の中の大手企業が提唱する持続的技術の後追いになる可能性もある。

もう一つの戦略としては、現在の短所が許容されるような市場を見つけるという戦略。これが破壊的イノベーションの場合に特に有効らしい。破壊的イノベーションは、機能は限定されているが軽くてシンプルという特徴をもって、特定の市場に強烈に魅力のある製品となる。最初はなかなか受け入れられないが、試行錯誤を繰り返すことで、独自の市場と販売チャネルが形成される。そして、この下位市場を足がかりに、技術の進歩にまかせて、徐々に上位市場に進出する。

この理屈を自分の能力に当てはめてみる。まずは自分の能力を展開できる市場を見つける。試行錯誤を繰り返し、足りない部分を補いながら、成長を続ける。顧客の声に振り回されるのではなく、顧客が何をしているのかを良く観察し、魅力的な技術を提供できる技術者となる。自分の技術力が進歩するスピードは、顧客の要望が増大するスピードよりも早いはずだ。試行錯誤を繰り返しているうちに、いつか、上位市場・メインストリーム市場に展開でき、かつそこで十分に競争力のあるものを生み出すような能力を身に付けることができるだろう。

そう信じて頑張ることにした。